【第58話】 林檎小娘◆vCMeD/yt12 様
『人影』
これは私が家族と旅行に出かけたときでした。
温泉に入って旅館に戻るときに、廊下を渡る浴衣を着た男性の人影が見えたのです。男性は、男湯と書かれた暖簾から出てきました。
ですが、お父さんの話に寄ると、「温泉は丁度貸切状態だった」らしいんです。
だから私、不思議に思ってお父さんに訊ねてみました。
「お父さん、あそこに人おるよ」と。
だけど指差したところには誰も居なく、見間違いかと思いフロント?のところに着いたときでしょうか。お父さんがフロントの人に聞くことがあったようで、そちらの方に向かっていったんです。
そのとき、二歳離れた弟が「あの人お父さんの知り合い?」といいました。弟の目線の先を見てみると、そこには私がさきほど見かけた男性でした。
男性はお父さんの横で同じスピードで歩いていたので、弟と二人で「あとで聞いてみよう」と話し合っていました。
お父さんが「ごめんごめん。さ、行こうか」とこちらに来て一緒に部屋まで行ったときには男性の姿はありませんでした。
部屋に入って早々、弟がお父さんにあのことを聞きました。
「さっきお父さんの隣を歩いていた人、知り合い?」
「一緒に温泉入るくらい仲いいんだよね」
と、二人でお父さんに言うとお父さんは首をかしげてこう言うのです。「お父さんと一緒に居た人はいない。温泉でのことは弟、お前が知ってるだろ」と。
「浴衣着た20くらいの人だよ?本当に見覚えないの??」と私が問い詰めると、お父さんはますます眉をひそめて「俺以外にあの場には居なかったよ」と。
これは今でも謎です。弟はもう忘れてしまっているのか話を出しても微妙な反応ばかりで…。
もしかしたら、(見た目だけ)若く見られるお父さんとはなにか通じるところがあったのかも……?なんて。
【了】
←前の話 後の話→